今日のお勧め品

これを読むに従っての注意事項が幾つかあります。まず、鬱展開が嫌いな人は読んではダメです。あと、表紙に騙されてもダメです。
この物語は、常に最悪の展開を想定しながら読んでもそれを上回る最悪な展開を見せてきます。最悪といっても物語的には、読者的には、最高ということです。いい意味で予想を上回れるのですから。ただ、登場人物にとって、主人公のイルにとって最悪な展開ということです。
いえ、イルだけではなく、この物語の世界全てが最悪の悪夢で彩られています。変異種と呼ばれるものにとっても、純潔と呼ばれるものにとっても、ケモノと呼ばれるものにとっても……世界はもう、進化することは出来なく、退化するのみ。それも、常に劣悪な環境と感情に囲まれ、凄まじい速度で。救いを求めるモノは人だけではなく世界までもそうしてしまう。だが、誰も救いの手を差し伸べられない。この世界を覆いつくすのは、希望のない絶望と夢のない劣情。侮蔑と狂気が入り混じり、全ての存在は否定され続ける。相容れない、世界自体が……
離しを戻しましょう。そう、たとえば、イルと親しい誰かが死ぬ、と思って読んでみます。どんな状況であれ、死ぬだけでも最悪なはずなのに作者の藤原さんはそれ以上の最悪を見せてきます。悪夢、だけでは片付かない。
この一巻を読み終わったときに残ったのは、吐き気がするような憐れみの情、また、それとは対になる次を読みたい、どんな最悪が待ち受けているのかという興味に、報われるのかという微かな希望。なんとも上手く作られた物語です。これは、買いです。